地獄組について

By 14:24


建物についての続きです。今日はファサード(建物の正面、建物の顔)の木組みを組むのに使われている地獄組という技術についてお話しします。
ご来店いただくお客さまにも「地獄組ってどういうものなの?」とよくご質問をいただくのですが、口頭ではなかなか難しいので、まずは、隈研吾事務所時代に作った地獄組のアニメーションをご覧ください。


通常木を組む場合、半分ずつ切り欠いて木材を組みますが、地獄組の場合は2/3に切り欠くことが大きなポイントとなっています。
もともと障子などの建具を作るのに使われていた伝統的な技術で、一度組んだら、ばらすことが難しい(故に「地獄」組と呼ばれています)、釘や接着剤などで固定する必要がないという特徴に加えて、今回のプロジェクトでは建物の構造物にするのに適した長所がありました。

木材は通常、空気中の水分の量によって伸び縮みします。冬には水分が少なくなるため痩せ縮み、夏には水分を吸収して満ち満ちて伸びます。この原理から、通常の切り欠きを施した木組みの面は、片面にばかり切り欠きがあるため、冬の時期には切り欠いた方向に湾曲してしまいます。それに比べると、地獄組の場合は両面に切り欠きを施すため、多少の伸び縮みは生じますが、一方方向に湾曲するということが起こらず、通年の寸法の変動が比較的小さく済みます。通常の切り欠きの木組みですと、変動が大きすぎ、建物の構造として使うことは難しかったかもしれませんが、変動が小さい地獄組を使うことによって建物を支える構造にすることが出来ました。

最近では、障子を作るにしても木材の乾燥技術の発達や材質の向上により、地獄組という技術を使うことが少なくなっていると聞きます。もはや社会的に必要のなくなった技術かもしれませんが、先人たちが長い期間をかけて編み出してきた知恵の結晶を、全く新しい使い方のために掘り起こしてくるという仕事はなかなか珍しく、とても面白いやりがいのある体験でした。